2017年7月13日、人権理事会第63会合で発表された「Methods of work of the Working Group on Arbitrary Detention(国連恣意的拘禁作業部会の作業方法)」(A/HRC/36/38)の原文と日本語訳です。
Methods of work of the Working Group on Arbitrary Detention(A/HRC/36/38)(英語原文)
恣意的拘禁作業部会の作業方法(恣意的拘禁ネットワークによる日本語訳)
(恣意的拘禁ネットワークによる日本語訳)
恣意的拘禁作業部会の作業方法※
Ⅰ. はじめに
1. 本作業方法は、人権委員会決議1991/42、1992/28、1993/36、1994/32、1995/59、1996/28、1997/50、1998/41、1999/37、2000/36、2001/40、2002/42、2003/31及び2004/39、また人権理事会決議6/4、10/9、15/18、24/7及び33/30における恣意的拘禁作業部会の付託事項の特徴を考慮したものである。1991/42の決議において委員会は、作業部会に、包括的な報告書により委員会に情報を提供するだけでなく、恣意的になされた自由の剥奪の事案を調査するという任務を与えた。
Ⅱ. 作業部会の機能
2. 作業部会は、人権委員会により決議1991/42により設置された。作業部会の最初の任務は人権委員会及び人権理事会により改められた。理事会は、その決議1/102において委員会の権限を引き継ぎ、作業部会の任務を決議6/4、15/18、24/7及び33/30において改めた。作業部会の任務は、3年毎に更新される。
3. 作業部会の内部組織は以下の通りである。
(a) 作業部会は、春季会合において、地域間の持ち回りの必要性とジェンダーバランスなどを考慮して、1年の任期で、委員長および2名の副委員長を選出する。委員長、副委員長は、当該会合の終わりに就任する。各役員は再選が可能である。
(b) 委員長は、作業部会の任務、作業方法、決定事項を制定または更新する決議によって与えられた機能を果たす。委員長は、人権理事会、国家およびその他の関連する利害関係者に対して、作業部会を代表する。また、作業部会の会合の議長を務める。
(c) 副委員長の一人は、個別の不服申し立てに関して作業部会のフォーカルポイントとなり、もう一名は、作業部会がとったすべての措置のフォローアップに関してフォーカルポイントとなる。
(d) 委員長および副委員長は、その機能を果たすにあたり、作業部会の権限に基づくものとする。委員長が不在の場合は、状況に応じて副委員長の1人が一時的に委員長の役割を担う。
(e) これら3人の役員はそれぞれ、会期間中に行った活動及び作業部会の他の構成員がいない会期中に行った活動について、各会期の初めに作業部会に詳細に報告しなければならない。
(f) 作業部会は、関心のある特定の問題について、いつでも報告者を任命することができる。
4. 作業部会は年に3回以上、少なくとも5~8日間の作業日をかけて、通常ジュネーブで会合する。
5. 審議中の事案または国別訪問が、作業部会構成員の一人が国籍を有する国に関係する場合、または利益相反の可能性があるその他の状況においては、当該構成員は、当該事案の議論、訪問、訪問報告書の作成に参加してはならない。
6. 審議の過程で、個別の事案や状況を扱う際、作業部会は意見を出す。その意見は人権理事会に提出する年次報告書に記載される。作業部会の意見はコンセンサスの結果であり、コンセンサスが得られない場合は、作業部会の構成員の過半数の意見が作業部会の意見として採択される。
Ⅲ. 作業部会の任務の実行
7. 作業部会の任務は、恣意的になされた自由の剥奪の事例を調査することである。作業部会は、その任務を遂行するにあたり、世界人権宣言に定められた関連国際基準、ならびに関係国が受け入れた関連国際文書、特に市民的及び政治的権利に関する国際規約、1951年の難民の地位に関する条約及び1967年の難民の地位に関する議定書、あらゆる形態の人種差別の撤廃に関する国際条約及び必要に応じて以下のものを含むその他の関連基準を参照する。
(a) 児童の権利に関する条約
(b) 拷問及び他の残虐な、非人道的な又は品位を傷つける取り扱い又は刑罰に関する条約
(c) すべての移住労働者とその家族の権利の保護に関する国際条約
(d) 障害者の権利に関する条約
(e) あらゆる形態の抑留又は拘禁の下にあるすべての者の保護のための諸原則
(f) 国連被拘禁者処遇最低基準規則(マンデラ・ルール)
(g) 自由を奪われた少年の保護のための国際連合規則
(h) 少年司法運営に関する国連最低基準規則(北京ルール)
(i) 国連自由を剥奪された人の法廷における救済と手続きの権利についての基本原則とガイドライン
8. 一般規則として、作業部会は、決議1997/50のパラグラフ15の意味における恣意的な自由の剥奪の状況を扱う際、その任務遂行のために、以下の5つの法的カテゴリーに言及する。
(a) 自由の剥奪を正当化するいかなる法的根拠をも見出すことが明らかに不可能である場合。刑期終了後、あるいは恩赦法が適用されているにもかかわらず拘禁されている場合(カテゴリーI)。
(b) 自由の剥奪が、世界人権宣言第7条、第13条~第14条及び第18条~第21条、ならびに国家が締約国である限りにおいては市民的及び政治的権利に関する国際規約の第12条、第18条~第19条、第21条~第22条及び第25条~第27条で保障された権利または自由の行使に起因する場合 (カテゴリーII)。
(c) 世界人権宣言及び当該国が受け入れた関連国際文書に定められている公正な裁判を受ける権利に関する国際規範の全体的または部分的不遵守が、自由の剥奪に恣意的な性格を与えるような重大なものである場合(カテゴリーIII)。
(d) 亡命希望者、移民、難民が、行政的または司法的な審査や救済の可能性なく、長期にわたる行政的留置を受けている場合(カテゴリーIV)。
(e) 自由の剥奪が、出生、国籍、民族、社会的出身、言語、宗教、経済状態、政治的その他の意見、性別、性的指向、障害、その他の地位に基づく差別を理由に基づくものとして国際法違反を構成し、それが人間の平等を無視することを意図し、また無視する結果となる場合(カテゴリーV)。
Ⅳ. 通報の提出と検討
A. 作業部会に対する通報の提出
9. 通報は、書面で提出し、事務局宛てとする。氏名、送信者の住所及び(任意記載として)電話番号、テレックス、ファックス番号又はメールアドレスを記載する。
10. 可能な限り、各事例は、説明として、逮捕または拘禁の状況、姓名、その他拘禁された者を識別することが可能な情報、およびその者の法的地位、特に以下のものを示さなければならない。
(a) 逮捕、勾留、またはその他の形態の自由の剥奪の日付と場所、およびそれを実行したと推定される者の身元、ならびにその者が自由を奪われた状況を明確にするその他の情報。
(b) 逮捕、拘禁、自由の剥奪について当局が示した理由。
(c) 当該事案に適用される法律。
(d) 行政・司法機関による調査活動、内部的救済措置、国際又は地域レベルの措置、それらの結果、またはそれら措置が功を奏しなかった理由や措置がとられなかった理由。
(e) 自由の剥奪が恣意的であると考えられる理由。
(f) 報告された状況の全容を作業部会に知らせることを目的とした、情報源から提示されたすべての要素の報告。たとえば、裁判の開始、仮釈放または確定的な釈放の許可、監禁条件または場所の変更、その他の類似の状況など。情報源からの情報がない場合、または情報源からの回答がない場合、作業部会はその事案の検討を終了できる。
11. 作業部会の作業を促進するために、通報は作業部会の事務局が用意するモデル質問票を用いて提出されることが望ましい。通報は、20ページを超えてはならず、附属書を含む追加文書としてこの制限を越えるものは作業部会の検討対象とならないことがある。
12. 上記通報は、政府、政府間組織、非政府組織、および人権の促進と保護のための国内機関も送付できる。通報を扱うにあたって、作業部会は人権理事会の特別手続任務保持者の行動基準9条、10条及び14条を考慮する。
13. 人権委員会決議1993/36のパラグラフ4の諸規定に従い、作業部会は、そのイニシアティブに基づいて、自由の恣意的剥奪を構成し得る事案をとりあげる。
14. 作業部会が開催されていないときは、委員長、またはその不在時には副委員長(上記パラグラフ3(c)及び(d)参照)が、当該事案について政府へ通知することを決定できる。
B. 通報の検討
15. 相互協力を確保するために、通報について政府に知らせ、政府の回答は通報の発信元に知らせることで、さらなるコメントを求めるものとする。作業部会の委員長、または委員長が不在の場合は副委員長(上記パラグラフ3(c)及び(d)参照)が伝達するものとする。政府の場合は、ジュネーブの国際連合事務局の常駐代表を通して書簡を送るものとする。作業部会は、政府に対し、60日以内に回答するよう要請するものとし、その間に、政府は、作業部会に可能な限り最大の情報を提供するために、適切な照会を行うことができる。作業部会は、報告された自由の剥奪が恣意的なものであるか否かを判断する意見を表明する権限を有することを、書簡で政府にも伝えなければならない。返信は20ページを超えてはならず、附属書を含む追加資料がこの制限を超える場合は、作業部会で考慮されないことがある。制限期間内に政府からの回答が得られない場合、作業部会は情報源から提出された情報に基づいて意見を述べることができる。
16. 政府が期限の延長を希望する場合には、作業部会にその理由を報告し、最大1ヶ月の回答期間が与えられうる。設定された期限が過ぎても回答が得られない場合であっても、作業部会は入手したすべての情報に基づいて意見を出すことができる。
C. 通報に関する措置
17. 得られた情報に照らして、作業部会は以下のいずれかの措置を講じなければならない。
(a) 作業部会への照会後、当該人が何らかの理由で解放された場合、当該事案は記録される。作業部会は、当該人の解放にかかわらず、自由の剥奪が恣意的であったかどうかについて、事案ごとに意見を出す権利を留保する。
(b) 作業部会は、当該事案が恣意的拘禁ではないと判断した場合には、その旨の意見を出さなければならない。作業部会が必要と判断した場合、勧告を行うことができる。
(c) 作業部会は、政府または情報源からさらなる情報が必要であると考えた場合、その情報を受け取るまで当該事案を保留できる。
(d) 作業部会は、拘禁の恣意性が立証されたと判断した場合、その旨の意見を表明し、政府に勧告を行う。
18. 作業部会により出された意見は、当該政府に伝達される。送信後48時間後には、情報源に伝達される。意見の先行未編集版は、情報源に通知された後、オンラインで公開される。
19. 作業部会が出した意見は、人権理事会の年次報告書の中で通知する。
20. 政府、情報源およびその他の当事者は、作業部会が意見で行った勧告に対して取られたフォローアップ措置を作業部会に報告すべきである。これにより、作業部会は、勧告の実施において達成された進捗状況および直面したあらゆる困難について、また、行動できなかった場合にも人権理事会に報告することができる。
D. 意見の検証手続
21. 例外的に、決定時に知られていれば異なる結果を導いたと思われる新たな事実を知った場合、作業部会はその意見を自ら再検討することができる。また、作業部会は、関係政府または情報源の申立てにより、以下の条件で意見を再検討することができる。
(a) 申立ての根拠となる事実が、全く新しいものであり、それを知っていたならば作業部会の決定を変更させたであろうと作業部会が考えるものである場合。
(b) 当該事実が知られていなかったか、申立てを行った当事者が当該事実にアクセスできなかった場合。
(c) 申立てが政府からなされた場合、政府が上記パラグラフ15~16で言及された回答期限を守っていることを条件とする。
Ⅴ. 緊急行動手続
22. 後述の場合、「緊急行動」という手続がとられることがある。
(a) ある人が恣意的に自由を奪われ、そのような剥奪の継続がその人の健康、身体的または精神的な完全性に対する深刻な脅威となっていること、または生命に対してさえも深刻な脅威となっていることについて十分信頼できる申し立てがある場合。
(b) 上記脅威がないものとして申し立てられている場合であっても、緊急の行動を必要とする特定の状況がある場合。
23. 作業部会は、政府に緊急アピールを送信した後、自由の剥奪が恣意的なものであるか否かについて意見を示すために、当該事案を通常手続を通して送信することができる。上記アピールは、純粋に人道的な性質のものであり、作業部会が示す意見に予断を与えるものではない。当該政府は、緊急行動手続と通常手続と別個に対応することが求められる。
24. 委員長、または委員長が不在の場合は副委員長(上記パラグラフ3(c)および(d)参照)が、最も迅速な方法で、関係国の常駐代表部を通じて外務大臣にアピールを発信する。
Ⅵ 国別訪問
25. 作業部会は、その任務を遂行するために、公式任務として頻繁に訪問を行う。訪問は、政府、現地の国連機関、市民社会の代表者と協力して準備される。訪問は、作業部会が、当該国における自由の剥奪状況や恣意的な拘禁の根本的原因をよりよく理解することを目的として、関係政府や市民社会の代表と直接対話する機会である。刑務所、警察署、移民のための拘置所、精神科病院を含む拘禁施設の訪問がこれら任務の重要な部分を占める。
26. 作業部会は、政府から国別訪問の招請を受けると、訪問の日程と条件を決める会議のため当該国の常駐代表をジュネーブの国際連合事務局に招く対応を行う。作業部会の事務局は、本任務を促進するためのあらゆる実際的措置を講じることを目的に、本訪問に関わる当事者との対話を開始する。訪問の準備は、ホスト国の外交当局および国連機関との緊密な協力において行われる。
27. 政府は、作業部会に対し、訪問期間中、作業部会が当該国家の各部門の最高機関(政治、行政、立法及び司法当局)との会合を行う機会を有すること、刑務所、監獄、警察署、入管収容所、軍事刑務所、少年収容所及び精神科病院を訪問することができること、並びに受入国の管轄に服する者の個人の自由に影響を与えるすべての当局及び職員と会合できることを保証しなければならない。また、作業部会は、国際的な団体および機関のほか、非政府組織、弁護士、弁護士会および利害あるその他職能団体、国内人権機関、外交および領事の代表者、宗教当局との会合を行う。作業部会と自由を剥奪された者との間の面談においては、絶対的な秘密保持が保証されなければならない。作業部会のインタビューを受けた者に対する報復を行わないことを政府は保証する。
28. 作業部会は、年に少なくとも2回の訪問を行い、その代表団は、少なくとも2名の委員で構成されるものとする。
29. 作業部会は訪問の終了時に、政府に対し、その予備的所見を知らせる予備的報告書を提出する。作業部会は、政府への報告の後、記者会見によってその所見を公衆に知らせるものとする。
30. 作業部会は、報告書を作成し、その採択後、事実上及び法律上の誤りに関する意見を集めるため、訪問国政府に通知する。最終報告書は、政府の見解を考慮したものとする。最終報告書は、年次報告書の添付文書として公表される。
31. 訪問中、作業部会の委員は、受け入れ国の法律を尊重しなければならない。
32. 訪問の2年後に、作業部会は、政府に対し、任務報告書において策定された勧告の実施に関する報告書を提出するよう要請する。訪問に関与したすべての利害関係者は、フォローアップ手続において通知を受け、所見を提出する。作業部会は、必要な場合、当該国へのフォローアップ訪問を要請する。
Ⅶ. 他の人権メカニズムとの調整
33. 人権の分野で活動しているさまざまな国連機関の間にすでに存在している良好な連携を強化するために(人権委員会決議1997/50、パラグラフ1(b)参照)、作業部会は以下の行動をとる。
(a)作業部会は、人権侵害の申し立ての検討中、その申し立てが他の作業部会または特別報告者によってより適切に取り扱われるべきであると考えた場合には、適切な措置が講じられるよう、その申し立てが該当する権限を有する当該関連作業部会または特別報告者にその申し立てを照会する。
(b)作業部会が、自らの権限および他のテーマ別メカニズムの権限に属する人権侵害の申し立てを受け取った場合、関係する作業部会または特別報告者と共同で適切な行動をとることを検討することができる。
(c) 人権理事会が特別報告者を任命している国家またはその国家に関連する他の適切なメカニズムについてのコミュニケーションが作業部会に付託された場合、作業部会は、当該報告者または責任者と協議の上、とるべき措置を決定する。
(d) 作業部会に宛てられたコミュニケーションが、すでに他の機関に付託された事態に関するものである場合、次の措置がとられる。
(ⅰ) 当該問題が付託された機関の機能が、その権限の範囲内で人権の一般的発展を扱うものである場合(例えば、大半の特別報告者、国連事務総長代表、独立専門家)、作業部会は当該問題に対応する権限を保持する。
(ⅱ) ただし、当該問題が既に付託されている機関が個別事案を扱う機能を持っている場合(例えば、人権委員会やその他の条約機関)、関係する人物や事実が同じであれば、作業部会はその別の機関に当該事案を回付する。
34. 作業部会は、人権理事会が既に国別報告者または当該国に関する他の適切なメカニズムを任命した国については、当該特別報告者または責任者が作業部会による訪問が有用であると考える場合を除き、当該国を訪問してはならない。
※ 本作業方法は、文書A/HRC/33/66に規定されている作業方法を上書きする。
[2021/8/3更新]