2020年5月8日、新型コロナウイルスの世界的な蔓延に際して発表された、国連恣意的拘禁作業部会審議結果第11号(公衆衛生の緊急事態における自由の恣意的剥奪防止)の原文と日本語訳です。※医療扶助・人権ネットワークより提供

審議結果第11号原文(英語)PDF(国連人権高等弁務官事務所サイト)

審議結果第11号(日本語訳)PDF(日本弁護士連合会サイト)

これまで出された国連恣意的拘禁作業部会の改定審議結果リスト(英語)(恣意的拘禁作業部会ホームページ)


先行編集版

2020年5月8日

オリジナル:英語

恣意的拘禁作業部会

公衆衛生の緊急事態における自由の恣意的剥奪防止についての討議No.11

Ⅰ. まえがき

1.各国家がコロナウィルスに対処するためにとる厳格な措置により、最近週数間の出来事は、世界中のすべて人の生活に大きな変化をもたらした。恣意的拘禁作業部会は、現在の状況が過去に経験しなかったものであることを認識し、そして国際法を尊重する形で、このパンデミックと戦うため広く公衆衛生上の緊急的措置が導入される必要を認識する。

2.それでもなお作業部会は、国家によりとられているすべての措置において国際人権法上の義務が適切に尊重されているわけではないと考える。したがって、それらについて緊急的に検証することを求める。

3.さらに、作業部会は、公衆衛生上の緊急事態により国家が緊急制度の導入という手段をとることを求められる状況において、すべての国家が国際法におけるそれぞれの義務や国家緊急事態の宣言と緊急的権力の行使1について規律した憲法又は他の法の諸規定に従い行動すべきことを想起する。それらすべての措置は、公に宣言され、緊急事態により生じる公共に対する脅威に厳格に比例し、公衆衛生保護を目的とした最も非侵害的なものであり、緊急事態と戦うために必要とされる期間のみ課されるものでなければならない。

4.作業部会は、数多くの国際的また地域的組織から既に発出された重要なステートメントやアドバイスを認識し、作業部会は、すべての国家がこれらを検討することを推奨する。本討議の目的は、コロナウィルス(COVID-19)と戦うことを目的とした公衆衛生上の緊急措置の実施において自由の恣意的な剥奪が生じる事案を防ぐための手引を示そうとするものであり、そして、これに必要な変更を加えることで他の公衆衛生上の緊急状況において手引となるものを示そうとするものである。

Ⅱ. 自由の恣意的剥奪の絶対的禁止

5.作業部会は、個人の自由に対する権利が、多くの国家により最近とられている多様な措置により特に影響を受けている諸権利の一つでしかないことを認識する。自由に対する権利が、絶対的な権利でなく、国際法の下でその権利からの逸脱(derogations)は認められているが、作業部会は自由の恣意的剥奪の禁止が絶対的なものでありかつ普遍的なものであることを強調したい。国家的緊急事態に関連する如何なる理由によっても、治安や公衆衛生の維持といった理由によっても、恣意的拘禁は決して正当化されない。この禁止は、国家の管轄下にある如何なる領域、国家が効果的に管理する如何なる場においても適用され、または国の代表や使用人の作為・不作為の結果について適用される。結果として、作業部会は、すべての国家に対して、パンデミックと戦うために導入される公衆衛生上の緊急措置に際して、自由の恣意的剥奪の絶対的禁止を尊重するように求める。

6.さらに、個人の自由に対する権利からの逸脱はすべて、それを行うに際して国際法により課された国家の権力に対する制限に厳格に従わなければならない。特に、国家は、厳格な必要性及び比例性の要件に従わなければならない。そういった逸脱は、公衆衛生上の緊急事態が広範に存在する急迫性により正当化される期間だけ認められるものである。

Ⅲ. 自由剥奪の諸制度

7.作業部会は、自由の恣意的剥奪の禁止が、拘禁に関する制度のすべての類型に及ぶことを想起する。これには刑事司法、行政拘禁、移民そして、ヘルスケアの場面における拘禁も含まれる。

8.さらに、自由剥奪は、法的な定義に関する問題であるだけではなく、事実の問題でもある。したがって、ある者がある建物を離れる自由がないとすると、その者は、その者の自由が剥奪されていると見なされるべきである。この点で、当該人が自由を剥奪されているかどうかを判断するためには、そういった場所の名称に拘わらず、個々人が拘禁されている状況が検証されることが決定的に重要である。作業部会は、隔離される個人が如何なる理由によっても逃れることができないという各個人の居宅を含めたある場所における義務的な隔離は、事実として自由剥奪の措置であるということを明確にしたい。国家は、人に対して隔離措置を行うとき、そのような措置が恣意的なものとならないよう確保しなければならない。義務的な隔離におくための時間的な制限が、法において明確に具体化されなければならず、実行においてはその法が厳格に遵守されなければならない。

9.作業部会は、また、秘密裏に行われる拘禁や外部との連絡を絶つ拘禁が個人の自由に対する権利を保護する規範に真っ向から違反するものであることを強調したい。恣意性は、個人が如何なる法的保護も受けられないものであり、そのような自由剥奪の形に内在している。そのような秘密裏に行う拘禁や外部との連絡を絶つ拘禁は、衛生関連の危機と戦うために導入される公衆衛生上の緊急措置の一部となりえない。

Ⅳ. 自由剥奪の必要性と比例性

10.法的根拠のない自由の剥奪や、法により設定された手続きに従わない自由の剥奪は全て恣意的である。自由の剥奪を認める法は全て精査されなければならない。如何なる自由の剥奪も、それがたとえ法により認められているものであっても、恣意的な法規を前提としている場合、差別的理由に基づいた状況に依拠したものであるなどもともと不公正である場合、基準や検証が行われず自由の剥奪を自動的(automatic)かつ無期限に認める過度に広範な規定がある場合、不法な行為の性質について明確に規定していない法がある場合は恣意的とされる。

11.さらに、適法な形での自由剥奪であっても、そのような拘禁が、厳格に必要なものではなく、または正統な目的追求において比例的な措置ではない場合も恣意的になりうる。特に、国家は、当初、必要性と比例性を充たしていた拘禁が、状況が大きく変わったことにより正当化できないものになりうることを留意しなければならない。

12.したがって、作業部会は、すべての国家に対して、コロナウィルスのパンデミックに関連する新しく生じる状況といった公衆衛生の緊急状況の文脈における自由剥奪の必要性と比例性の要件について特別の注意を払うことを求める。

13.特に、国家は、コロナウィルスのパンデミックが拡大する状況において、拘禁が未だに必要性と比例性があるものとして正当化されるのかどうか判断するために、すべての拘禁状況において現在行われている自由剥奪の事案を直ちに検証すべきである。国家は、その検証に際して、拘禁に代わるすべての代替措置を検討すべきである。

14.公判前の拘禁は例外的な場合にのみ用いられるべきである。現在の公衆衛生の緊急事態は、当局(authorities)がパンデミックの状況においても必要性と比例性を説明しなければならないという意味で、当局に対して検討について追加的責任を加えるものである。作業部会は、特に個人について自動的に行われる公判前の拘禁が国際法に適合的ではないことを想起する。公判前の拘禁の各事案の状況が評価されるべきである。すべての手続き段階において、拘禁的措置を行わない措置が可能であるならいつでも取られるべきであり、特に公衆衛生の緊急事態においてはそうである。

15.作業部会は、コロナウィルスが 60歳以上の人、妊娠中の女性、授乳を行う女性(women who are breastfeeding)、基礎疾患を持つ人、そして障害のある人に大きく影響を与えるものであることを認識する。したがって、作業部会は、国家に対して、そういったすべての個人は危険状態にあるものとして対応することを勧告する。国家は、そういった個人を身体・精神的完全性に対するリスクがあり命のリスクが高まるような自由剥奪を行う場所に留めることを避けるべきである。

16.最後に、過密そして不衛生状態がコロナウィルス拡大の具体的なリスクを生じさせることに留意し、国家は、非拘禁措置に関する国連の最低基準規則(東京ルールズ)と女性被拘禁者の処遇及び女性犯罪者の非拘禁措置に関する国連の規則(バンコクルールズ)に規定されている拘禁を伴わない措置を十分考慮して、可能なときにはいつでも、解放しても安全な者については早期、暫定的又は一時的な解放を行うという措置の実施により、監獄内また他の拘禁の人口密度を下げるべきである。子どもを拘禁しないという子どもの権利条約から生じる義務に留意し、子どもや子供を持つ女性の解放について特別な考慮がなされるべきである。それは非暴力的犯罪のために服役しているものについても同様である。

17.すべての国家は、作業部会により採択された意見において解釈され適用された慣習国際法、国際人権宣言、そして各国が当事国となっている関連する国際文書を含め国際人権法における各国家の義務を遵守しなければならない。拘禁が、作業部会により恣意的であると判断されたときは、すべての事案において被拘禁者は、直ちに解放されなければならず、公衆衛生の緊急事態においてそれは急務である。

Ⅴ. 自由剥奪の適法性について異議を申し立てる権利

18.裁判所において拘禁の適法性について異議を申し立てる権利は、それ自体が人権であり、国際法の強行規範として自由剥奪のすべての形式に対して適用されるもの、自由剥奪のすべての状況に対して適用されるものである。この権利は、拘禁の場所や関連法規において用いられている法的文言が如何なるものであろうと適用される。結果として、如何なる理由に基づくものであろうとすべての自由剥奪は、司法による効果的な監視とコントロールに服さなければならない。

19.作業部会は、自由剥奪の適法性について異議を申し立てる権利は同様に、義務的な隔離(mandatory quarantine)における拘禁やパンデミックと戦うために導入されている公衆衛生の緊急的措置の文脈において行われる拘禁にも適用されることを強調したい。そういった状況における諸個人は、特に法的援助に対してアクセスできるようにすることで、この権利を効果的に行使できるように確保されなければならない。

Ⅵ. 公正な裁判を受ける権利

20.作業部会は、パンデミックと戦うために導入される公衆衛生上の措置が拘禁施設へのアクセスを制限し得るものであり、そうして今度は、自由剥奪が行われている場所における諸個人が裁判や他の裁判所の審問や仮釈放委員会や自由の継続的な剥奪について検討する権限を与えられた他の機関が参加する会議に出席することを妨げうること、弁護士や家族との会合を妨げうることに留意する。これは特に公判前における者、拘禁についての決定の検証を求めている被拘禁者、そして有罪判決や宣告に対して申し立てを行おうとしている者に対しても悪影響を及ぼす。

21.国家は、広範な公衆衛生上の緊急事態の急迫性により物理的接触の制限を求められるのであれば、弁護士に対して、彼らの依頼人と意思疎通が行えるよう、無償かつ秘密・機密的議論が可能な状況で、安全が確保された(secured)オンラインでの意思疎通、電話での意思疎通を含む他の利用可能な方法を確保しなければならない。同様の措置が裁判所の審問についてとられ得る。裁判所や弁護士へのアクセスを制限する画一的措置(blanket measures)の導入は正当化されず、自由を恣意的に剥奪しているものと見做され得る。

Ⅶ. 特定の集団を対象とする緊急権の利用

22.緊急権は、特定の集団または個人の自由を奪うために用いられてはならない。例えば、諸個人を拘禁する権力は、公衆衛生上の緊急事態の間、人権擁護者、ジャーナリスト、政治的に対抗する立場にある者、宗教的指導者、ヘルスケアの専門家、緊急権について反対の意見を表明し批判する如何なる個人、衛生の緊急事態に対して取られる措置について公的措置を批判する情報を広げる如何なる個人をも沈黙させるために用いてはならない。

Ⅷ. 移住の文脈における拘禁

23.移住の場面における拘禁は、最終的に用いる例外的な措置としてのみ認められるものであり、これが充足されるには、パンデミックや公衆衛生上の緊急事態の場合においては、特に高い基準が充たされなければならない。

24.作業部会は、すべての国家に対して、移民の子どもや家族ある子どもは移民政策の文脈において拘禁されるべきではなく、したがって直ちに解放されるべきであることを再認識させる。

25.難民申請者は、彼らのステータスの決定を行う手続きの間、自由を剥奪する場所におかれるべきではなく、難民は受け入れ国の当局により保護されるべきであり、拘禁されてはならない。

Ⅸ. 平等及び無差別

26.公衆衛生上の緊急事態に対処するために執行される緊急的措置や緊急権は、出生、国籍、民族、社会的起源、言語、宗教、経済的事情、政治または他の意見、ジェンダー、性的指向、障害または他のステータスについて平等及び無差別の原則を尊重する形で行使されなければならない。

27.そのような措置や権限は、ディスアドバンテージをすでに抱えており危険にさらされた諸集団に対しては異なる影響があり、結果として彼らの自由を奪いうることを考慮に入れなければならない。その諸集団には、障害を持つ人、老人、マイノリティな共同体、土着の民族、アフリカ出身の人々、国内避難民、極度の貧困により影響を受ける人々、ホームレスの人々、移民・難民、ドラッグを使用する人々、セックスワーカー、LGBTI、そしてジェンダーとして多様性ある人々(gender-diverse persons)、衛生上の指示(例えば、自宅における隔絶、自分で出費して行うホテルでの隔離、罰金や保釈金制度に支えられた仕事に出ないことの要求)に同様に従う能力がない人が含まれる。

Ⅹ. 独立的監視と諸人権メカニズムとの協力

28.作業部会は、自由の恣意的剥奪の状況発生を最小限のものとするため、自由剥奪のすべての場についての国家的または国際人権メカニズムによる独立的な監視の重要性を強調する。そういったメカニズムには、国内レベルとして、検察・司法組織、政府の人権部門、国家の人権機関、国家の予防的メカニズム、市民社会、また国際レベルとして国連難民高等弁務官事務所、赤十字国際委員会、他の関連 NGO が含まれる。

29.作業部会は、人権の監視に関与する人たちが 「害を与えてはならない」という原則を保持しようとし、拡大する公衆衛生上の緊急事態により独立的監視に対して課される具体的課題を認識する。しかしながら、拡大している公衆衛生上の緊急事態は、そのような独立的監視を妨げることの正当化として利用できない。作業部会は、すべての国家に対して、コロナウィルスのパンデミックの間そして他の公衆衛生上の緊急事態の間、独立監視メカズムが、自由の剥奪が行われる場所の訪問を認めることを求める。監視機関の各訪問が重ならないように調整すること、追加的な電話、インターネットでのコンタクトやホットラインを構築すること、そして個人を保護する装置を用いることといった実務上の措置に対して適切な考慮がなされなければならない。

30.作業部会は、諸国家に対して、拷問禁止条約の選択議定書を批准することを促し、そして当事国である国に対しては、拷問防止小委員会の国家に対するアドバイスやコロナウィルスのパンデミックに関連する国家の予防的メカニズムに従うことを促す。

31.すべての国家は、人権理事会の特別手続と本作業部会そして公衆衛生の緊急事態における各手続きに効果的に関与するそれぞれの努力を継続すべきである。

[2020年5月1日採択]


審議結果(deliberations)とは

国連恣意的拘禁作業部会は、その決定に一貫性を持たせるため、また、各国が恣意的となるような自由の剥奪をするのを未然に防ぐために、「審議結果」を策定して、自由の剥奪が恣意的となる基準を示しています。