2004年12月1日、人権委員会第61会期で発表された、国連恣意的拘禁作業部会審議結果第7号(精神医療の拘禁に関する問題について)の原文と日本語訳です。

審議結果第7号(原文・英語)PDF (国連人権高等弁務官事務局サイト)

審議結果第7号(日本語訳)PDF (恣意的拘禁ネットワーク訳)

これまで出された国連恣意的拘禁作業部会の改定審議結果リスト(英語)(恣意的拘禁作業部会ホームページ)


E/CN.4/2005/6

審議結果第7号 精神医療の拘禁に関する問題について

47. 2003年12月15日の報告(E/CN.4/2004/3)において、恣意的拘禁作業部会は、健康上の理由で拘禁されている障害のある人、薬物依存者、AIDS罹患者といった弱い立場にいる人の状況について懸念を表明した(パラグラフ74)。作業部会は、「健康上の理由で自由を剥奪されている人に関して、作業部会は、そういった措置により影響を受けている全ての人は、その拘禁に対して不服申し立てをする司法上の手段をもたなければならないと考える」という点を勧告した(パラグラフ87)。精神障害のために拘禁されている人々は、作業部会の見解では、精神科病院や施設または類似の場所に強制的に収容されることがこれら弱い立場にいる人々と同じ懸念を生じさせるため、弱い立場の人のカテゴリーに組み込むことができる。

48.  1991年の第1回会合で作業方法を作成した際、作業部会は、閉鎖的な施設に収容された精神障害者の自由の剥奪を伴う措置について、抽象的な見解を示すことを意図的に避けた。作業部会は、この問題は後に検討するのがより適切であるとした。

49. 最初の会合以降、作業部会は、精神障害があるとされる者の自由の剥奪に関する個人通報を受けており、また、精神障害者の自由の剥奪に関する非政府組織を含む様々な情報源から、この問題に関する情報を受け取っている。

50.  作業部会は、その存続中蓄積された経験に基づいて、精神障害者の拘禁に関する作業部会の見解を示すことが時宜を得ていると考える。この所見を準備するにあたり、作業部会は以下の文書に依拠した。障害者の権利に関する宣言(総会決議3447(XXX))、精神障害を有する者の保護と精神医療の改善に関する原則(総会決議46/119)、知的障害者の権利に関する宣言(総会決議2856(XXVI))。特別報告者エリカ=イレネ・デースによる予備報告「精神疾患を理由に拘禁された者の保護のための原則、指針および保証」[1]

51.  精神病の現象への対処は、人類にとって古くからの問題である。精神障害者の治療はかなり改善されたとはいえ、彼らを他の社会から隔離する必要性は、治療の永続的要素として残っているようである。隔離が自由の剥奪にあたるかどうかは、抽象的に判断することはできないし、してはならない。作業部会は、精神障害者本人の意思に反して外出できない状態におくことは、原則として自由の剥奪にあたると考える。自宅軟禁に関する審議結果第1号において適用された方針に沿い、問題となっている自由の剥奪が拘禁を構成するかどうか、構成する場合恣意的な性質を持つかどうかを事案ごとに評価することが作業部会に委ねられている。

52. 市民的及び政治的権利に関する国際規約(ICCPR)第9条第1項および第4項が、あらゆる形態の逮捕および拘禁に適用されることは議論の余地がない[2]

53.  作業部会は、規約第9条の規定は、一般(慣習)国際法を反映したものであり、したがって、規約を批准していない国に対しても拘束力があると考える。ICCPRの草案作成の歴史は、自由の剥奪のすべての可能な形態を網羅的にリストアップしようとする試みがあったことを物語っている。また、委員会は1949年に、誰もが恣意的に逮捕または拘禁されることを禁止する一般的な定則(general formula)を全会一致で採択した。第9条が刑事責任のみを理由とした逮捕・拘禁を対象としていないことは、委員会の一般的意見第8号によく現れている。「委員会は、第1項が、刑事事件においてであれ、又はその他の場合、例えば、精神病、放浪、麻薬依存、教育目的、出入国管理等においてであれ、あらゆる自由の剥奪に適用されるものであることを指摘する」等。確かに、9条の規定の一部(第2項の一部と第3項の全部)は、刑事責任を問われた人にしか適用されない。しかし、それ以外の部分、特に第4項に規定された重要な保証、すなわち拘禁の合法性について裁判所の判断を受ける権利は、逮捕または拘禁によって自由を奪われたすべての人に適用される。

54.  国際法上、自由の剥奪自体は禁止されていないが、ICCPR第9条第1項によれば、拘禁が適法であり、かつ恣意的性質を持たない場合にのみ許されるとされる。

(a)  適法性を確保するためには、拘束が法の根拠に基づき、法律で定められた手続きに従って実施されることが必要である。第9条第1項の分析及びICCPRのすべての類似規定[3]から、「法律」が満たさなければならない要件とは、国内法がすべての許容される制限と条件を定めなければならないということが分かる。したがって、「法律」という言葉は、議会制定法や、関連する権限に服するすべての個人にとってアクセスできるコモンローの不文規範に相当するものという厳密な意味で理解されなければならない。したがって、行政規定はこの要件を満たしていない。法律は、明確な文言で表現されなければならない。

(b)  国際基準を満たすためには、自由の剥奪が法律で定められているだけでは不十分である。自由の剥奪は、恣意的なものであってはならない。この要件は、第9条第1項とその第2文(「何人も恣意的に拘禁されない」)に由来する。恣意性の禁止が広く解釈されるべきことは、「恣意的」または「恣意的に」[4]という用語を使用しているすべてのICCPRの規定から分かる。恣意的拘禁について網羅的リストを示すことは不可能であり、作業部会の見解ではその必要もない。恣意性は、ある拘禁の関連するすべての状況に照らして評価されなければならない。恣意性の禁止を国家が遵守する際の最低限の要件は、自由の剥奪が明らかに非均衡的なもの、不正なもの、予測不可能なもの、差別的なものであってはならないということである。さらに、(主張される)精神障害を口実に自由を奪われても、その人の政治的、イデオロギー的、または宗教的な見解、意見、信念、または活動を理由に拘禁されていることが明らかな場合、拘禁は明らかに恣意的である。

55.  上記の原則を精神障害者に適用すると、作業部会は、彼らの脆弱な状況故に、この人たちについて特別な注意を払う必要があることに留意する。様々な要因が、精神疾患の兆候がある人の自由を奪う原因となる。つまり、実際に精神疾患を患っているかどうか、患っている場合にはその疾患の性質を特定するための診察を行うこと。精神疾患が明らかになった場合、自由の剥奪は、患者自身は望まない医療行為の必要性が理由となることがある。さらに、精神病患者を閉鎖的な施設に監禁することが、その患者が他人や自分自身に危害を加えることを防ぐために必要となるかもしれない。

56.  精神障害者が犯した行為に対する刑事責任を問えない法制度では、刑事犯罪の容疑者または起訴された者が、精神疾患の兆候を示した場合、健康診断、診察や診断のために拘禁されることがある。病的な精神状態とそれに伴う刑事責任能力の欠如が立証された場合、裁判所の命令により必要と判断される限り継続できる強制(義務的な)治療のために拘束されることがある。

57.  精神障害や精神病という現象は、本人や家族、社会全体にとって残念であるが、これは存在する。精神病は、精神疾患者の利益のために、または社会全体の利益のために、自由の制限または剥奪を伴う措置を取らざるを得ない場合がある。しかし、作業部会の立場としては、取られた措置が国際基準を遵守しているかどうかを評価する際には、病気の影響を受けている(とされる)人の脆弱な立場を正当に考慮しなければならない。

58.  作業部会は、その任務の下で個々の通報を検討するにあたり、以下の基準を適用する。

(a)  行政上の措置としての精神科の拘禁は、当該人が自由に出られない閉鎖的施設に入れられた場合、自由の剥奪とみなすことができる。精神医療施設に収容されている人の状況が、作業部会の任務の意味における自由の剥奪にあたるかどうかは、作業部会が事案ごとに評価する。

(b)  同じことが、刑事責任に影響を及ぼす可能性のある、推定される精神疾患についての医学的検査、診察、診断を保留している犯罪容疑者の自由の剥奪についても当てはまる。

(c)  法律は、精神障害者の自由剥奪の条件と、恣意性に対する手続き上の保証を規定しなければならない。このような法律に関する要件は、上記パラグラフ45(a)及び(b)においてより詳細に説明されている。

(d)  ICCPR第9条第3項は、犯罪容疑で逮捕または拘禁された者のうち、精神疾患の兆候を示す者に対して、その脆弱な立場と、それに伴う拘禁に対して異議を唱える能力の低下を正当に考慮して適用されなければならない。本人または家族が選択した法的支援を受けていない場合、本人を代理するため弁護人または後見人を通じた効果的な法的支援が与えられる。

(e)  ICCPR第9条第4項は、精神障害を理由として、裁判所の命令、行政上の決定またはその他の理由により、精神科病院または類似の施設に収容されている者に適用される。さらに、患者をさらに精神科施設に収容する必要があるかどうかは、裁判所または独立した公平な機関によって合理的な間隔で定期的に検証されなければならず、拘禁の理由がもはや存在しない場合には、患者は解放されなければならない。検証手続においては、上記(d)で規定されているように、本人の脆弱な立場とそれに伴う適切な代理人の必要性も考慮される必要がある。

(f)  精神科の拘禁に関する決定は、患者が収容されている施設の専門家の意見や、担当の精神科医の報告や勧告に自動的に従うことは避けるべきである。患者及び/又はその法定代理人が、精神科医の報告書に異議を唱える機会を与えられる、真に対抗的手続きが行われなければならない。

(g) 精神科の拘禁は、表現の自由を脅かしたり、政治的、思想的、宗教的な見解や活動を理由に、その人を罰したり、抑止したり、信用を失墜させたるために用いてはならない。


[1] United Nations Publication, Sales No. E.85.14.9.

[2] 本所見に関連する市民的及び政治的権利に関する国際規約は、「すべての者は、身体の自由及び安全についての権利を有する」(第9条第1項)と規定している。何人も、恣意的な逮捕され又は抑留されない。何人も、法律で定める理由及び手続によらない限り、その自由を奪われない。そして、第9条3項において「刑事上の罪に問われて逮捕され又は抑留された者は、裁判官又は司法権を行使することが法律によって認められている他の官憲の面前に速やかに連れて行かれるものとし、妥当な期間内に裁判を受ける権利または釈放される権利を有する。裁判に付される者を抑留することが原則であってはならず、釈放に当たっては、裁判その他の司法上の手続のすべての段階における出頭及び必要な場合における判決の執行のための出頭が保証されることを条件とすることができる」。そして、第9条第4項は、「逮捕又は抑留によって自由を奪われた者は、裁判所がその抑留が合法的であるかどうかを遅滞なく決定すること及びその抑留が合法的でない場合にはその釈放を命ずることができるように、裁判所において続きをとる権利を有する」。

[3] 第9条第1項に加え、第12条第3項、第18条第3項、第19条第3項、第21条及び第22条第3項を参照せよ。これらの規定は、「法律で定める」と同義の文言「法律で定められた」や「法律により規定された」を用いる。

[4] 第9条第1項に加えて、第6条第1項「何人も恣意的にその生命を奪われない」、第12条第4項「何人も、自国に戻る権利を恣意的に奪われない」、第17条第1項「何人も、その私生活、家族、住居若しくは通信に対して恣意的に若しくは不法に干渉され又は名誉及び信用を不法に攻撃されない」も参照せよ。

訳者注:原文パラグラフ45は、恣意的拘禁作業部会のイランへの国別訪問に関する記述であり、同パラグラフ(a)及び(b)は、イランが作業部会の勧告に対応して行った司法行政改革の内容が記載されている。したがって、自由剥奪の条件に関する記述を行う「パラグラフ45(a)及び(b)」は誤りであり、「パラグラフ54(a)及び(b)」が正しいと考えられる。

[2004年12月1日]


審議結果(deliberations)とは

国連恣意的拘禁作業部会は、その決定に一貫性を持たせるため、また、各国が恣意的となるような自由の剥奪をするのを未然に防ぐために、「審議結果」を策定して、自由の剥奪が恣意的となる基準を示しています。

[2021/10/19最終更新]