恣意的拘禁作業部会とは
国連恣意的拘禁作業部会(UN Working Group on Arbitrary Detention)は、国連に設置された人権機関のうち、「特別手続」の中に位置付けられた、専門家による作業部会です。恣意的拘禁作業部会は1991年に当時の人権委員会の決議によって設置され、現在は人権理事会の下にあります。恣意的拘禁作業部会の現在のメンバーは5名です。
恣意的拘禁作業部会の任務は、あらゆる種類の身体の自由の剥奪について、それが「恣意的な拘禁」に当たるかどうかを、世界人権宣言や自由権規約などの国際的な基準に照らして調査することにあります。
恣意的拘禁作業部会の個人通報制度
恣意的拘禁作業部会には、個人通報制度(権利を侵害された個人が、国際機関に訴え、人権侵害の救済を求める仕組み)があります。個人通報は、特別な条約を締結していない国に対しても行うことが可能です。申立てに当たっては、その国の救済手続を全てやり尽くしていなければならないなどの要件もありません。
恣意的拘禁作業部会は、個人通報に対して、その身体拘束が以下の5つのカテゴリーに当たる場合に、恣意的な拘禁であるという意見を出します。
I. 身体の自由の剥奪を正当化するいかなる法的根拠の援用も明らかに不可能な場合
II. 身体の自由の剥奪が世界人権宣言・自由権規約の特定の条項 保障の権利・自由の行使による場合
III. 公正な裁判を受ける権利に関する国際規範の全部又は一部の不遵守が恣意的な自由の剥奪と言えるほど重大な場合
IV. 難民認定申請者、移民又は難民が、行政上・司法上の審査又は救済を受ける可能性がなく、長期間行政手続上の拘禁を受けている場合
V. 身体の自由の剥奪が差別であり、国際法違反を構成する場合
日本に対して採択された作業部会の意見
これまで日本に対して採択された作業部会の意見には、次の6つがあります。
-2009年9月 グリーンピース・ジャパンの職員2名が調査捕鯨の横領行為を告発しようと証拠物である鯨肉を確保したところ、同行為が窃盗等に当たるとして逮捕・勾留された事例(刑事)
-2018年4月 飲食店内の冷蔵庫からコーラを盗もうとして逮捕された後、精神病院において措置入院となった事例(精神医療)
-2018年8月 米軍基地移設に対する抗議活動をしていた沖縄の山城博治氏が、器物損害罪等で約5か月勾留された事例(刑事)
-2018年11月 ホテルで部屋を汚してしまった後、警察官に拘束され、精神病院において措置入院となった事例(精神医療)
-2020年8月 難民申請者2名が、3年以上の長期収容を受けていた難民申請者2名が、長期収容についてハンガーストライキ等で抗議し、その後、一時的に仮放免されたものの2週間後に再収容された事例(入管)
-2020年8月 自動車会社経営者のカルロス・ゴーン氏が、金融商品取引法違反等の複数の被疑事実で、重ねて逮捕・勾留され、107日間の身体拘束後、一度保釈されるも、約1ヶ月後に再度逮捕勾留され21日間の身体拘束を受けた事例(刑事)
国別訪問手続(カントリー・ビジット)について
恣意的拘禁作業部会は年2~4回、国別訪問を行っており、訪問期間中は、委員が刑事、入管、精神医療などあらゆる分野の拘禁施設を視察し、被拘禁者からヒアリングを行い、政府関係者、議員、NGO等と対話を行います。日本はまだ恣意的拘禁作業部会の国別訪問を受け入れたことがなく、恣意的拘禁作業部会のウェブサイトには国別訪問をリクエスト中の国の一つとして掲載されています。
日本は、これまで恣意的拘禁作業部会からの国別訪問手続の要請を、少なくとも2015年4月15日および2018年2月2日の2度にわたり正式に受けていますが、未だ日本への国別訪問は実現していません。
国連恣意的拘禁作業部会(Working Group on Arbitrary Detention)ウェブサイト
https://www.ohchr.org/en/issues/detention/pages/wgadindex.aspx(外部リンク)