世界人権宣言と自由権規約

「世界人権宣言」は、人権尊重における「すべての人民とすべての国とが達成すべき共通の基準として」(前文)、1948年12月10日、第3回国連総会の決議として宣言されました。

自由権規約は、正式名称を「市民的及び政治的権利に関する国際規約」といい、「経済的、社会的及び文化的権利に関する国際規約」(「社会権規約」)とともに、1966年12月16日、第21回国連総会において採択されました。

自由権規約と社会権規約は、世界人権宣言の内容を基礎としてこれを条約化したものです。両規約は、条約であり、法的拘束力を有し、締約国はこれを遵守する法的義務を負います。

日本は、1979年6月21日に両規約を批准し、 1979年9 月21日に効力が生じました。なお、日本では、条約は特別の立法を必要とせず、交付によって直ちに国内的効力を有し、法律に優位する効力を有すると解されています。

身体の自由と恣意的拘禁

世界人権宣言は、「すべて人は、生命、自由及び身体の安全に対する権利を有する。」と定めています(3条)。この身体の自由は、最も伝統的で基本的な自由権の一つです。

この自由を保障するため、世界人権宣言は「何人も、恣意的に捕らえられ、拘禁され、あるいは追放されない」と規定しています(9条)。

自由権規約は、9条において、以下のとおり、身体の自由の権利を定め、また、恣意的拘禁について詳細な規定を設けています。

1 すべての者は、身体の自由及び安全についての権利を有する。何人も、恣意的に逮捕され又は抑留されない。何人も、法律で定める理由及び手続によらない限り、その自由を奪われない。

2 逮捕される者は、逮捕の時にその理由を告げられるものとし、自己に対する被疑事実を速やかに告げられる。

3  刑事上の罪に問われて逮捕され又は抑留された者は、裁判官又は司法権を行使することが法律によって認められている他の官憲の面前に速やかに連れて行かれるものとし、妥当な期間内に裁判を受ける権利又は釈放される権利を有する。裁判に付される者を抑留することが原則であってはならず、釈放に当たっては、裁判その他の司法上の手続のすべての段階における出頭及び必要な場合における判決の執行のための出頭が保証されることを条件とすることができる。

4 逮捕又は抑留によって自由を奪われた者は、裁判所がその抑留が合法的であるかどうかを遅滞なく決定すること及びその抑留が合法的でない場合にはその釈放を命ずることができるように、裁判所において手続をとる権利を有する。

5 違法に逮捕され又は抑留された者は、賠償を受ける権利を有する。

「恣意的拘禁」とは

法的根拠を完全に欠く拘禁は恣意的です。しかし、国内法により許容されていても、その拘禁が恣意的な場合もあります。

「恣意性」の概念は、「法律違反」と同等に扱うべきではなく、不適切かどうか、不正義かどうか、予測可能性及び法に基づく適正手続(デュー・プロセス)が欠如していないかという要素並びに合理性、必要性及び相当性の要素も含めてより広く解釈されなければならないからです。例えば、裁判によって一定期間の刑罰が科される場合を除き、あらゆる形態の拘禁を継続する決定は、拘禁の継続を正当化する事由についての定期的な再評価がなされない場合、恣意的であるとされます(自由権規約委員会一般的意見35号・見CCPR/C/GC/35)。

たとえば入管収容について、出入国管理関連の理由による拘禁は、法律によって定められ、妥当なものとして正当化され、必要性が認められ、状況に照らして正当な目的に比例し、期間の延長に応じて再審査されなければならず、過度に長期の拘禁や無期限の拘禁は恣意的とされます(国連恣意的拘禁作業部会による移住者の自由の剥奪に関する改定審議結果第5号・A/HRC/39/45)。2020年9月には、それと同旨の意見が恣意的拘禁作業部会から日本政府に対して出されています(A/HRC/WGAD/2020/58)。

刑事未決勾留については、2020年11月に発表された恣意的拘禁作業部会の日本政府に対する意見(A/HRC/WGAD/2020/59)において、起訴前保釈制度や弁護人の取り調べ立会権のない勾留は恣意的であるという指摘がなされました。

精神科医療の強制入院については、2019年1月に発表された恣意的拘禁作業部会の日本政府に対する意見(A/HRC/WGAD/2018/70)において、強制入院が必要か、適切か、そして比例性を有したものであるかを個々の場合において評価する独立した機関により検証されることがない強制入院や、精神障害そのものを理由とする差別的な強制入院は恣意的であるであるという指摘がなされました。

(2021年2月4日改訂)