2022年11月11日、恣意的拘禁ネットワークから上記声明を発表しました

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自由権規約委員会の総括所見を受けて、身体拘束による人権侵害の根絶と

国別訪問手続(カントリービジット)の実現を求める声明

2022年11月11日

日本国 

内閣総理大臣     岸田文雄 殿

外務大臣       林 芳正 殿

法務大臣       葉梨康弘 殿

厚生労働大臣     後藤茂之 殿

国家公安委員長    谷 公一 殿

出入国在留管理庁長官 菊池 浩 殿

恣意的拘禁ネットワーク(NAAD[1])   

 (構成団体)            

ヒューマンライツ・ナウ(HRN)

監獄人権センター(CPR)

医療扶助・人権ネットワーク

全国難民弁護団連絡会議(JLNR)

沖縄国際人権法研究会(AOCHR)

入管問題調査会(IRTF)

 2022年11月3日、国連自由権規約委員会は、日本の第7回政府報告書審査に対する総括所見を発表した。総括所見には、刑事拘禁、入管収容、精神科の強制入院について、それぞれ懸念と勧告が示されており、日本の身体拘束に関する制度及び運用が、国際人権基準に照らして重大な問題であることが改めて明らかになった。

 各身体拘束に関する勧告内容は以下のとおりである。

① 刑事拘禁に関して

 死刑に関しては、死刑の廃止やモラトリアムの確立、死刑執行の事前告知、死刑確定者の精神状態に関する独立した審査制度の創設に加えて、委員会は長期の独居拘禁の禁止や死刑確定者に対する24時間のビデオ監視を制限するよう勧告した。また、再審請求中に死刑が執行されたという報告に深い懸念を抱くとともに、死刑確定者の再審請求や恩赦に執行停止効果を持たせ、死刑事件についての必要的で効果的な再審査のシステムを確立するよう政府に求めた。

 そして刑事拘禁に関して委員会は、弁護士へのアクセス、家族と連絡する権利および必要な時における医療の提供を含めて、刑事拘禁制度を国連被拘禁者処遇最低基準規則(マンデラ・ルール)に完全に適合させるために必要な措置を採用するよう勧告した。とりわけLGBTの受刑者について、トランスジェンダーの受刑者に対する一般的な処遇として独居拘禁が使用されないよう、「性同一性障害等を有する被収容者の処遇指針について(通知)」(平成23.6.1矯成3212矯正局成人矯正課長・矯正医療管理官通知 改正平成27.10矯成2631)を見直すなど、必要な措置を講じるよう勧告した。

② 入管収容に関して

 収容中の処遇面に関しては、2017年から2021年の間に3名の死亡事件が起きたとして、収容施設における十分な医療へのアクセスを含む、外国人が虐待の対象とならないことを保障するためのあらゆる適切な措置を執ることが求められた。

 また、前回勧告と同様、入管収容そのものに関して、収容代替措置を提供すること、仮に収容するのであれば、入管収容が必要最小限度の期間のみ、かつ、代替措置が十分に検討された場合のみ、最後の手段として用いられるようにすること、収容の合法性について裁判所に実効的に訴えることができるようにすることが勧告されたが、今回はこれに加えて、収容期間に上限を導入すべきことも明記された。

 さらに、収容しない場合の措置である「仮放免」中の人たち(「karihoumensha」とのローマ字表記がなされている)に対して、必要な支援を提供し、収入を得るための活動に従事する機会の確立を検討すべき、という勧告が新たになされた。

 以上のとおり、入管収容・処遇については、全件収容主義の廃止に留まらない、抜本的・根本的な制度改革・法改正が求められている。前回廃案となった入管法改正案では、これらの勧告に全く対応できないことが明らかである。

 なお、入管収容・処遇の問題についてはフォローアップ項目とされ、2025年11月4日までに日本政府は勧告の実施に関する情報を自由権規約委員会に対して提供しなければならない。

③ 精神科強制入院に関して

 精神科の強制入院については、精神障害者の入院から地域生活への移行・入院を回避する代替手段確保に向けた取り組みの継続、強制入院は最終手段であり、必要最小限の時間のみ認められ、自傷他害からの保護の目的達成のため必要かつ比例的となるよう確保すること、すべての精神障害者のインフォームドコンセントが確保されるよう、法・その他の必要な援助措置を含め対策を講じるべきこと、障害者虐待防止法の医療施設への射程拡大を含め公・私立の精神科病院における精神障害者に対するあらゆる形態の虐待を監視・防止・根絶する取り組みを強化すべきこと、あらゆる医療事業者・組織における虐待について効果的な調査・制裁が実査され、被害者やその家族に対して完全な補償がなされるよう確保することを勧告した。

 刑事・入管・精神医療分野における被拘禁者は、それぞれ社会におけるマイノリティにあたり、人権享受において不合理な差別にさらされている。委員会は、過去の勧告同様、人権侵害を予防・救済するため包括的差別禁止法の制定、パリ原則に準拠した国内人権救済機関の設置に向けた取り組みについても勧告した。

 今回の勧告に対して、法務大臣が国内人権救済機関の設置については、「指摘としてしっかり受け止める」と記者会見で述べたが、単に「受け止める」という言葉だけでなく、その勧告実現に向けた具体的行動が求められている。また、国内人権救済機関の設置だけでなく、日本のあらゆる分野における拘禁の問題をはじめとする今回勧告を受けた様々な人権問題に積極的に取り組み、人権侵害状況を改善することが求められる。そのためには、わたしたちが2020年1月20日付け共同声明において求めたとおり、日本政府は、拘禁問題の国際的な専門家組織である恣意的拘禁作業部会の国別訪問手続(カントリー・ビジット)を受け入れ、同作業部会による実態調査を踏まえた専門的な勧告・助言を受けて、同作業部会との建設的対話を行い、国際人権基準に則った制度改革・法改正を実施することが必要不可欠である。

 日本は、これまで恣意的拘禁作業部会からの国別訪問手続の要請を、少なくとも2015年4月15日および2018年2月2日の2度にわたり正式に受けているにもかかわらず、未だ日本への国別訪問は実現していない。

 2022年10月には、国内避難民の人権に関する特別報告者が、原発事故による避難者の調査のために国別訪問手続として来日しており、恣意的拘禁作業部会についても同様に受け入れることができるはずである。

 以上の理由により、わたしたちは、次のとおり要請を行う。

1 日本政府は、自由権規約委員会の勧告の実現に向けて、具体的な運用変更や制度改革、法改正等のあらゆる措置をとること  

2 日本政府は、国連恣意的拘禁作業部会(WGAD=the UN Working Group on  Arbitrary Detention)による国別訪問手続(カントリー・ビジット)を直ちに実現すること。日本政府は、同手続に全面的に協力すること

[1] Network Against Arbitrary Detention (website: https://naad.info/ )