国連恣意的拘禁作業部会の改定審議結果第5号(移住者の自由の剥奪)の原文と日本語訳です。※外国人ローヤリングネットワーク提供
改訂審議結果第5号原文PDF(英語)(国連ホームページ、該当箇所は31ページ以下)
改訂審議結果第5号PDF(日本語訳)(外国人ローヤリングネットワークより承諾を受けて転載)
これまで出された国連恣意的拘禁作業部会の改定審議結果リスト(英語)(恣意的拘禁作業部会ホームページ)
先行編集版
2018年2月7日
原文:英語
恣意的拘禁に関する作業部会
移住者の自由の剥奪に関する改定審議結果第5号
1. 恣意的拘禁に関する作業部会は、人権委員会の決議 1991/42 により設置された。人権委員会は、決議 1997/50 において、同作業部会の権限を拡大および明確化し、行政的または司法的救済の可能性を与えられないまま、行政機関により長期収容されているとされる移住者および難民申請者の状況に関する報告に必要な注意を尽くすことを同作業部会に要請した。
2.この枠組みの元で実施された調査訪問から得られた知見に照らして、1999 年に同作業部会は難民申請者および移住者の自由の剥奪が恣意的である可能性を判断するための基準の設定を主導し、最終的に協議結果第5号を採択した。
3.移住者および難民申請者の自由の剥奪に関する審議の要請がなされてから 20 年後の 2017 年、移住者および難民申請者の自由の剥奪が近年益々広がっているという事態を懸念した同作業部会は、これまで同作業部会が積み上げてきた法解釈を整理することの必要性を認識し、この分野における国際法の重要な動向を考慮し、特に関連する国連の専門機関および特別報告者の協力を得て、協議結果第5号を改訂し最新版に差し替えることを決定した。
4.同作業部会は、2018 年は「すべての人間は、生れながらにして自由であり、かつ、尊厳と権利とについて平等であり、人種、皮膚の色、性、言語、宗教、政治上その他の意見、国民的若しくは社会的出身、財産、門地その他の地位又はこれに類するいかなる事由による差別をも受けることなく、この宣言に掲げるすべての権利と自由とを享有することができる」ことを公式に認めた世界人権宣言 70 周年を記念する年であることを強調したいと願う。さらに世界人権宣言は「何人も、恣意的な逮捕または追放されることはなく、すべて人は、自国その他いずれの国をも立ち去り、及び自国に帰る権利を有する」と宣言し、また「すべて人は、他国に避難することを求め、かつ、避難する権利を有する」ことを認めている。
5.今回の審議は、移住者の自由の剥奪に関する同作業部会のこれまでの知見を集約し、それにより既存の法解釈を代表させることを目指したものである。
改定審議結果第5号
6. 今回の審議の目的を考えると「移住者(migrant)」とは (a) 当人の法的地位、(b) 本人の自由意志で 移動したか否か、(c) 移動の理由または、(d) 滞在期間に関わらず、自分の常居住地から離れて、国境を越えて移動している、あるいは移動した人を指すと考えられるべきである。またこの定義には、難民申請者、難民および無国籍者を含むと考えるべきである。
I. 身体の自由の権利および恣意的な拘禁を受けない移住者の権利
7.身体の自由は基本的人権であり、当人の市民権、国籍、または滞在資格に関わらず、移住者および難民申請者を含む全ての人に対し、時及び状況を選ばず常に保障されなければならない。さらに世界人権宣言第 13 条にあるように「すべて人は、自国その他いずれの国をも立ち去り、及び自国に帰る権利を有する。」
8.恣意的拘禁の禁止は絶対であり、これは慣習国際法または強行規範(ユス・コーゲンス)における「緊急時であっても効力を停止できない(non-derogable)法規範」であることを意味する。国家非常事態、治安維持、あるいは移住者または難民申請者の大量流入等に関連するいかなる理由においても、恣意的拘禁を正当化することはできない。これは、領域的管轄権および国家による実効支配の両方に適用される。
II. 他国に庇護を求め、かつ庇護を享受する権利、および移住者を犯罪者として扱うことの禁止
9.他国に避難することを求めることは普遍的な人権であり、その行使を犯罪としてはならない。
10.移住者による非正規入国・滞在は犯罪行為と見なされるべきではない。よって非正規の移住を犯罪行為と見なすことは、自国の領土を保護し非正規移住者の流入を規制するに際して国に認められる正当な利益として許される限度を超える。移住者を、国家あるいは公共の治安および/または公衆衛生の維持の観点からのみ犯罪者と認定し、または犯罪者として扱ったり、判断してはならない。
11.保護者のいない、または養育者から分離された子どもを含む難民申請者、難民、無国籍者あるいは移住者である子どもの自由の剥奪は禁じられている。
III. 出入国管理関連の理由による収容の例外性
12.出入国管理という観点から課される行政上の収容または保護は、それがどのような形態であっても、入国の記録および主張の把握や、疑いのある場合に一次的な人定を行うといったもっともな目的によって正当化される場合にのみ、例外的最終手段として最低限の期間のみ許される。
13.出入国管理関連の理由による収容を含む全ての拘禁は、それがどのような形態であっても、 裁判官あるいはその他の司法当局によって指示および承認されなければならない。出入国管理関連の理由による被収容者は、速やかに司法当局のもとに連れて こられる必要がある。その収容が必要的、比例的、合法的、非恣意的であり続けることを確保するため、その収容につき被収容者に自動的で定期的な審査へのアクセスが 与えられるべきである。もっとも、これ により移住者が裁判所に対し自らの収容の合法性または恣意性について争う権利が排除されることはない。。
14.出入国管理関連の理由による収容は、当事者の個別の事情に照らして、合理的、必要、かつ正当な目的に比例している場合にのみ正当化できる。このような収容は最低限の期間のみ許されるものであり、懲罰的な意味合いを持つことはあってはならず、期間を延長する場合には定期的な審査が実施されなければならない。
15.あらゆる移住者、難民および無国籍者を含む外国人が、その在留の状況にかかわらず、どんな状況であっても自由を剥奪された場合には、即時釈放を命令する権限を持つ、あるいは釈放のための条件を変更することができる裁判所に対して異議申し立てをする権利が与えられなければならない。
16.正当な目的がある場合にのみ例外的な措置として収容が用いられるようにするためには、収容の代替措置が検討されなければならない。
17.収容の代替措置は現実的なものであるべきであり、その費用を当事者が支払うことができるか否かに依存するものであってはならない。収容の代替措置は、当局への定期的な報告、コミュニティ内での在留、保証金またはその他の保証を条件とする保釈、あるいはオープンセンターや指定の場所での在留など様々な形式を取り得る。このようなオープンセンターやその他の施設の状態は、人間的なものであり、かつ全ての人が生まれながらに持っている尊厳を尊重するものでなくてはならない。
18.収容の必要性は個別に評価されるべきであり、移住者の現在の滞在資格の形式的な評価に基づいて評価されるべきではない。収容は比例原則に従わなければならない。
19.収容の代替措置の適用の可否は、司法当局が審査しなければならず、収容の代替措置を解放の代替と見なしてはならない。このため、出入国管理を理由とする自動的および/または義務的な収容制度は恣意的とみなされる。
20.出入国管理関連の理由による収容は、法律によって定められ、合理的なものとして正当化され、必要性が認められ、状況に照らして正当な目的に比例し、期間の延長に応じて再審査されなければならない。これらの重畳的な要素は、個別の事案において満たされていなければならない。
21.移住者収容の方針および手順は差別的であってはならず、個人の法的な地位に基づいて区別することがあってはならない。人種、皮膚の色、性別、言語、宗教、政治的意見またはその他の意見、国民的もしくは社会的出身、経済的地位、出自、国籍またはその他の地位等のみを根拠として人を収容することは常に恣意的とされる。
22.合理性要件を満たすには、個別の事案において正当な目的を達成するために収容が実施されている必要がある。これは、収容の正当化させる妥当な目的を明確に定義し、その全てを網羅した法律によって規定されていなければならない。収容の正当化事由には、非正規な状態にある者の身分を証明する必要性、あるいは、さらなる手続きに当人の出頭が必要な場合に逃亡の可能性がある者の身柄を確保することが含まれる。
23.必要性要件を満たすには、本来の目的を達成するためには収容が絶対に欠かせない条件であり、かつ非正規な移住状態にある者の個別の事情に照らして、収容よりも負担の少ない措置が存在しないことが必要である。
24.比例性要件を満たすには、収容が個人の精神的および肉体的健康に与える影響を含む「例外的な状況において個人の自由を剥奪する」という措置の重大性と、懸念される状況との間の均衡がとれていることが必要である。比例原則の適用を徹底するためには、収容の代替措置が常に検討されていなければならない。
IV. 出入国管理関連の理由による収容の期間
25.出入国管理関連の理由による収容期間の上限は法律で定められているべきであり、かつこのような収容は最低限の期間のみ許容されるべきである。過度に長期の出入国管理関連の理由による収容は恣意的とされる。法律に定められた収容期間が満了した時点で被収容者は自動的に釈放されなければらない。
26.出入国管理関連の理由による無期限の収容を正当化することはできず、恣意的とされる。
27.例外的な状況に置かれた当事者の身元確認または国外追放の妨げとなる理由が、 当該個人に帰するものではない場合がある。これには、出身国の領事館が非協力的である、ノン・ルフールマン原則、あるいは移送手段がないことにより国外追放の実施が不可能な場合を含む。そのような場合には、恣意的とされる無期限の収容が発生する可能性を避けるために、 被収容者は釈放されなければならない。
V. 収容の合法性を問う権利
28.『自由を剥奪されたすべての人が裁判所に救済とその手続きを求める際の基本的原則とガイドライン(Basic Principles and Guidelines on Remedies and Procedures on the Rights of Anyone Deprived of Their Liberty to Bring Proceedings before a Court)』は、あらゆる移住者、難民および無国籍者を含む全ての外国人に対し、その地位に関わらず、自由の剥奪のあらゆる事例に適用される。
29.収容の合法性が裁判所によって遅滞なく判断され、不服申立てが認められた場合に適切な救済がなされることを求めて、自由を剥奪された誰もが収容について裁判所で争う権利は、独立した人権であり、その欠如は人権違反となる。この権利はその滞在資格に関わらず、あらゆる移住者、難民および無国籍者を含む全ての人に適用される。
30.期間の定めのない収容について効果的に争うことが不可能である場合、出入国管理関連の理由による収容は、どんなものであっても恣意的とされる。
VI. 出入国管理関連の理由による収容中の権利の尊重
31.出入国管理関連の理由による被収容者は、刑事収容施設あるいは行政収容施設に収容されている者と同じ権利を有する。これには『あらゆる形態の抑留又は拘禁の下にあるすべての者の保護のための諸原則(Body of Principles for the Protection of All Persons under Any Form of Detention or Imprisonment)』で規定されている権利を含む。
32.出入国管理関連の理由による被収容者に対し、人種、皮膚の色、性、財産、出自、年齢、国民的、民族的もしくは社会的出身、言語、宗教、経済状況、政治上またはその他の意見、性的嗜好または性自認、障害、国籍またはその他の地位に基づく、あるいは平等を基礎とする人権の享受を妨げることを目的とする、あるいはこれにつながるような差別待遇をしてはならない。
33.出入国管理関連の理由による被収容者は、収容の決定の性質および理由、収容期間、さらにそのような決定の合法性および恣意性を争う可能性について、当人が理解できる言語で書かれた書面によって通知される権利を有する。
34.出入国管理関連の理由による被収容者は全て、難民申請を行う権利について適切な説明を受け、難民申請を行うことができなければならない。
35.収容命令について争い、強制送還決定に異議申立をし、または迫害が予想される国や地域に追放したり強制送還したりする「ルフールマン」をさせないために、収容されている全ての移住者が、法的代理人および助言、および通訳者にアクセスできるようになっていなかればならない。必要な場合には、無料かつ効果的な法律扶助に確実にアクセスできるようになっていなければならない。
36.収容されている全ての移住者は、収容された瞬間から収容期間を通じて、自国の領事代表に連絡する権利について説明されていなければならない。もし移住者がこの権利を行使することを希望する場合、当人がこのような連絡を取ることができるようにすることは当局の義務である。
37.収容されている全ての移住者は、外の世界および親族と電話や電子メールを含む手段で連絡を取ることができなければならない。
38.収容されている全ての移住者は、全ての人間が持つ尊厳に対する尊敬の念をもって人間的に取り扱われねばならない。収容の状態は人間的かつ適切で、敬意を重んじたものでなくてはならず、出入国管理関連の理由による収容は懲罰的な性質を持つものではないことに留意しなければない。収容の状態は、収容の合法性について争う能力を損なうようなものであってはならならず、難民申請を阻止するための手段として収容を用いるべきではない。
39.収容されている全ての移住者が、精神医療を含む適切な医療を無料で利用できるようになっていなければならない。
VII. とりわけ脆弱なおよび/または危険にさらされている移住者
40.両親の在留資格の問題のために子どもを収容することは、いかなる場合にも子どもの最善の利益の原則に違反し、子どもの権利の侵害にあたる。子どもをその両親および/または法的保護者から引き離してはならない。両親が収容されている子どもの収容は、家族単位を維持するという目的で正当化されるべきではなく、その代わりに収容の代替措置を家族全員に適用しなければならない。
41.例えば妊婦、授乳中の母親、高齢者、障がいのある者、同性愛者、両性愛者、トランスジェンダー、両性具有者、あるいは移住者は、人身売買、拷問および/またはその他の重大な犯罪の生存者など、とりわけ弱い立場におかれている、および/または危険にさらされている移住者の収容は行ってはならない。
42.父母兄弟などの近い家族・肉親でない限り、収容されている男女は常に別々に収容されなければならない。
VIII. 国外追放及び送還の禁止
43.ノン・ルフールマン原則は常に尊重されなければならない。また、その地位に関わらず、あらゆる移住者、難民および無国籍者を含む国際保護の必要性がある外国人の追放は、国際法によって禁止されている。
IX. 収容施設
44.難民申請者またはその他の非正規移住者の収容は、警察署、拘置所、刑務所および同様の施設で行ってはならない。それは、これらの施設が刑事司法制度の領域にいる者のために設定されているからである。移住者と刑事司法制度の権限において拘留されているその他の拘留者を同じ施設に収容することがあってはならない。
45.入管手続きの過程において収容された者が収容されている施設が収容施設とみなされるか否かは、収容者が自由に施設から出ることができるか否かによる。そうすることができない場合、「シェルター」、「ゲストハウス」、「トランジットセンター」、「移住者ステーション」など、どのような名称で呼ばれていたとしても、その施設では自由の剥奪が行われているとみなされ、 被収容者に適用される全ての保護措置が完全に尊重されなければならない。
46.国家が移住者収容施設の経営を民間契約業者あるいはその他の団体に委託している場合にも、これらの業者が委任された権限をどのように行使するかについては、国家が責任を負うことに変わりはない。民間の契約業者あるいはその他の団体がこうした収容施設をどのように運営するかについての責任を、国家が自ら放棄することはできない。これは、このような収容施設に収容されている者に対し国家は注意義務を有するからである。
X. 出入国管理関連の理由による被収容者への接見
47.国連難民高等弁務官事務所、赤十字国際委員会および、国家人権機関、国内での防止メカニズム、国際および国内のNGO を含むその他の関連団体に対し、出入国管理関連の理由によって被収容者が収容されている施設に自由に出入りすることが許可されていなければならない。
XI. 今回の審議の適用範囲
48.今回の審議で再度規定されている基準は、あらゆる国で全ての状況において適用される。また例えばあらゆる移住者、難民申請者、難民および無国籍者が大量流入する場合などの要素を用いてこれらの基準の適用を除外することを正当化することはできない。今回の審議の基準は、他の国の領域で国家が運営している移住者収容施設にも適用され、両国が収容に対し連帯責任を負う。
[2017年11月23日採択]
審議結果(deliberations)とは
国連恣意的拘禁作業部会は、その決定に一貫性を持たせるため、また、各国が恣意的となるような自由の剥奪をするのを未然に防ぐために、「審議結果」を策定して、自由の剥奪が恣意的となる基準を示しています。
国連恣意的拘禁作業部会 審議結果(deliberations)の外部リンクhttps://www.ohchr.org/EN/Issues/Detention/Pages/Deliberations.aspx
https://www.ohchr.org/Documents/Issues/Detention/CompilationWGADDeliberation.pdf
(最終更新:2021年4月8日)