
2023年11月8日、オーストラリア連邦高等裁判所は、1958年移民法に基づく入管収容は、原告らに適用する限りにおいて、憲法第3章に反すると判断しました。これは、合理的に予見可能な将来に原告をオーストラリアから退去強制することが実行可能になる現実的見込みがないにもかかわらず収容し続けることは憲法に反するとしたものであり、送還の見込みのない無期限収容を憲法違反と判断したものといえます。
オーストラリア連邦高等裁判所2023年判決PDF(英語原文)※外部リンク
オーストラリア連邦高等裁判所2023年判決PDF(日本語訳)※外国人ローヤリングネットワーク提供
オーストラリア連邦高等裁判所による判決要旨(英語)※外部リンク
事案の概要
オーストラリア1958年移民法189条1項は、当局が不法滞在外国人又は不法滞在外国人であると合理的に疑う場合、当局に対しその者を収容する義務を課し、同196条1項は収容期間について、当該外国人にビザが付与されるか、当該外国人がオーストラリアから退去強制されるまで、と定めていた。
原告はミャンマー出身の無国籍のロヒンギャであり、2012年にボートでオーストラリアに到着したが、到着後、移民法189条1項に基づき入管収容された。2014年、ブリッジング・ビザが許可されたため、原告は解放されたが、2016年に刑事事件(性犯罪)を起こし、5年の拘禁刑を宣告された。2018年に仮釈放で解放されたが、移民法189条1項に基づき、再び収容された。原告はオーストラリアに難民としての保護ビザを求めていたが、有罪判決を理由に保護ビザの発給が認められず、一方で強制送還もされないまま、2023年に至っても収容が継続していた。
争点
合理的に予見可能な将来に原告をオーストラリアから退去強制することが実行可能になる現実的見込みがない者に対し、移民法189条1項及び196条1項を適用して収容することが、憲法第3章に反しないか。
憲法第3章(司法権)の趣旨:「国家による国民の強制的な身柄拘束は刑罰的又は懲罰的な性質を有しており、我が国の統治制度においては、刑事犯罪を裁き処罰するという司法府のみが有する機能に付随するものとしてのみ存在しうる」
判決要旨
Lim判決(1992年)は、「両条項が認める義務的収容が、退去強制又は入国許可の申請及び審査を可能にするために必要なものと合理的にみなすことができる範囲に限定されている場合は、有効な法律となる」が、この範囲に限定されない場合は、両条項は刑罰的性質を有することになり、司法権は裁判所に排他的に帰属すると定める憲法第3章に反するとした。
したがって、Lim判決に即して言えば、行政収容を認める連邦制定法は、その収容期間を、特定された制定法の目的(合理的に達成可能な目的)を実現するために必要なものと合理的にみなすことができる期間に限定しなければならない。
これに対し、被告は「退去強制が行われるまでオーストラリア社会から隔離すること」は、外国人を収容する正当かつ非刑罰的な目的として適切であると主張した。しかし、「外国人をオーストラリア社会から隔離する」という目的は、正当な目的の範囲に含まれない。Lim判決は、2つの正当な目的(オーストラリアの在留許可の審査及び付与を行うこと、また、在留許可が与えられない場合には退去強制を行うこと)のいずれかの実現に「付随するもの」に限り許容されるとしている。「オーストラリア社会からの隔離」が「収容によるオーストラリア社会からの隔離」と同一視されるとすれば、被告側が主張する目的は、収容と収容目的を不当に混同するものである。
結論として、審理終了の時点で、また2023年5月30日以降、合理的に予見可能な将来に原告をオーストラリアから退去強制することが実行可能になる現実的見込みはなかったため、移民法189条1項および196条1項を原告の収容継続を認めるために適用したことは有効ではなく、原告の収容は違法であった。